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ASAF AC 総括レポート



ASAF Asian Championship 2016

ASAF 2016年アジア選手権大会


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Report & Photo by JSAFナショナルコーチ



49er・49erFXが国枠を獲得
3クラスで国枠獲得を狙ったアジア選手権が終了しました。
49erの牧野幸雄・高橋賢次(トヨタ自動車東日本)が下馬評どおりにトップを走って国枠をとりました。
枠取りが悲願だったレーザーは今回も悔しい思いをする結果となりました。
大接戦の末、メダルレースで勝ったチームが代表となった49erFXは、国枠とりというよりは誰が代表になるかというところに焦点が絞られましたが、宮川恵子・高野芹奈(和歌山セーリングクラブ)が代表となりました。

以下に、JSAFの国枠獲得に対する取り組みを振り返ります。


49er
49erは11月にアルゼンチン、2月にアメリカのフロリダで世界選手権が行われましたが、牧野組は僅差で国枠獲得を果たせませんでした。

今回のアジア予選が最後のチャンスでした。フロリダの世界選手権で22位になったことから、アジアの他国とは国際レースの中では差があることはわかっていました。しかし、軽風が多いアブダビで、軽量のアジア選手たちを相手にするため、万全を期して体重を落とし、現地に到着してからもインドと走り合わせをする中でさらに体重を落とすという徹底したものでした。
レース艇もリオ本番で使う艇を日本からアブダビへ運び、大会終了後にリオへ送るという段取りにしました。それでも、オールトップということはなく、毎日が苦戦の連続。結果としては順当な勝ちにはなりましたが、最後までハラハラする大会でした。

インドから、日本の2艇がチームレースをやったと抗議が出ましたが、審問の結果、問題なしという判決が出ました。インドは苦し紛れに、牧野・高橋がポートタックで日本の2番艇である高橋稜(レオ)・小泉維吹(Kristin School NZL/早稲田大学)の前を通った時、高橋がわざと前を行かせたと抗議を出したのです。
高橋の父はキールボートやニッポンチャレンジで活躍したロバート・フライさんで、長く日本に住んでいたニュージーランド人。母親は日本人で、現在オークランドに家族で住んでいます。小泉は山口県光高校時代にISAFユースで3位、アジア大会でも銀メダルを獲得。470のスキッパーでオリンピックを目指したらという周囲の声をはねのけ、自分が乗りたいスキフに挑戦しています。
OPの世界選手権で高橋と出会った小泉がニュージーランドに留学中で、2人で出たセールオークランドでは49erで2位になりました。高橋はこの大会に日本から出るためにワールドセーリング(旧ISAF)へ参加資格の申請をし、晴れてJPNでの参加となったわけです。牧野・高橋に隙あらば自分たちが代表になりたいと狙いつつ、次の東京を視野に入れての参加でした。


49erFX
49erFX は松苗幸希・原田小夜子(ガルフネット)、波多江慶・板倉広佳(豊田自動織機)、深沢瑛里・大熊典子(早稲田大学・福井県体育協会)、宮川恵子・高野芹奈(和歌山セーリングクラブ)が出場しました。

松苗・原田組はフロリダでの世界選手権に参加してからアブダビ入りしました。
波多江・板倉組は1月下旬にマイアミで開催されたワールドカップには参加したものの、世界選手権には出ずに、2月中旬からアブダビで現地練習に時間を費やしました。インドも同じ頃にイギリスのトレーニングパートナーといっしょにアブダビで練習を始めていましたので、ライバルの力量を十分に探ることができました。

2月25日に和歌山から送ったコンテナを受け取りました。スキフ5艇、レーザー3艇、合計8艇で40ftハイキューブコンテナは満載でした。
27日からスキフプロジェクトの一環としてユルキーコーチが5日間の練習を実施しました。
参加艇数が少ない大会ですから、ボートスピードとスタートに焦点をしぼり、個別に修正しました。時々練習に混ざってくるインドはポートスタートを試みてばかりでした。マイアミのワールドカップで1度、ポートスタートで大成功してあわやトップかという走りができたため、そのイメージが続いていたようです。練習レースでも、いいポートスタートからトップ回航をしたことがありました。

インドの出鼻をくじいたのは初日のプロテストの失格です。
波多江組とインドは両方からプロテストを出し合いましたが、結果はインドが失格。その後も、吹けば松苗組と波多江組が前を走り、軽風になると宮川組、アップダウンがあるものの上位に喰いついている深沢。この4艇にインドは割り込むことができずに終わりました。

日本の4艇には差がありませんでしたが、得意な風域でトップをとれるかが鍵となりました。ダウンウインドでの視野が広い宮川と、高校を卒業したばかりでまだスキフのクルーとしては覚えることばかりの髙野でしたが、軽風のスピードでは体重の軽さと持ち前のレースマインドで勝負強さを見せ、代表となりました。
8月のリオは軽風が多いのは事実ですが、アブダビほどの軽風はそれほど多くありません。厳しい戦いとなりますが、しっかりレベルアップしてほしいチームです。髙野は昨年420ワールドでも3位になったシンデレラ・クルーです。18歳でオリンピックを経験するのは、ロンドン五輪の時の土居愛実と同じです。4月から大学生です。

レース後に原田がぽつりと言いました。「もう、2番にはなりたくない…」。ロンドンの時には最後まで土居愛実と戦い、1番差で代表を逃しました。今回もまた1番差。代表選考はいつも笑顔と涙の入り混じった複雑な場所となります。人生をかけて戦ってきた選手たちが結果を受入れるまでには時間がかかるでしょうが、悔しい思いを捨てられないなら、東京を目指してスタートしてください。一息ついて、落ち着いて考えてみればいいことです。FXはリオから始まったばかりの種目で、江の島の波で華麗にダウンウインドを走らなければならないクラスです。諦めずにチャレンジしてください。


レーザー
国枠がとれなかったレーザーですが、終わった直後に南里が「4年前と同じで、安田さんがリコールで沈み、自分が枠をとりにいく展開になりました」と言いました。ロンドン前に行われたドイツのボルテンハーゲンでも同じ結果でした。タイが国枠をとってロンドン代表になる姿を見て悔しい思いをしたはずでしたが、今回も前に行くことができませんでした。
日本から艇を輸送し、最後の1年は安田がクロアチア、南里がドミニカ、瀬川がセイルコーチでマルタへと武者修行に出ました。みんな、できる限りのことはやりました。パースプロジェクトの若い選手たちも4人がチャレンジし、レースごとに異なる選手がトップで上マークを回っていきました。メダルレースの前の日は、意地の1、2、3でフィニッシュし、マレーシアとタイとの差を縮めて最後の逆転に臨みをかけました。それでも届かなかった国枠でした。

日本がライバル視していた中国も枠がとれなかったのですが、飯島コーチは中国がチャーター艇で、しかも直前に現地入りしており、アジア予選に全力で臨まなかったと指摘します。マレーシアとタイは日本同様、自艇をコンテナ輸送し、2月後半から現地で練習していました。吹けば日本と中国が優勢でしたが、大会は軽風が多くマレーシアの圧勝に終わりました。

途中、南里がインドにプロテストを出しました。
スタート前の単純な割り込みを抗議したのですが、インドがそれに対してUAEの選手がぶつかったのが原因であるとUAEに抗議を出しました。その日はUAEが審問に来なかったので、UAEが失格でインドは失格にならずに終わりました。
南里は審問の直前にUAEの存在を知ったのですが、飯島コーチは宿へ戻ってから、念のためビデオにケースが映っていないかを確認しました。そこで、失格になったUAEは別のUAEであることがわかり、翌朝、新たなる証拠としそのビデオをジュリーに見せて、審問の再開となりました。2時間を超えたプロテストには関係する選手が全部呼ばれ、本来そこにいたUAEが失格となり、誤って失格になったUAEは成績が戻りました。該当しない選手のセール番号で抗議を出していたインドは厳重注意となりました。
今回はジュリーがフェアーなレースを強調しており、大会前の注意にも、枠とりのためにチームレースをしてはならないと記載していました。実際にマイアミではRS:Xの南米・北米の枠がかかったレースでチームレースが起こったそうです。アジアでも昨年のワールドカップでナクラがチームレースをして問題になっていました。

レーザーは東京へ向けて、何かを変えねばならないでしょう。体格と体力だけではだめです。ボートハンドリングはパーフェストが当然。ダウンウインドが下手なうちはゴールドフリートに残れない。賢いゲームプレーヤーになり、頭を使ってレースをすることが勝敗を決める。北京代表だった飯島コーチは、「自分は体格で劣っていたので、頭を使ってレースで勝つしか道がなかった」と言います。2019年には鳥取・境港での世界選手権の開催が決まりました。東京を目指すレーザーセーラーは、そこでトップ10に入れるように、今から必死に取り組んでください。


7種目11人がリオにチャレンジ
先に決まった470男女、RS:X男女、レーザーラジアル女子にスキフ2クラスが加わり、7種目11人の選手がリオにチャレンジします。8月の本番までに欧州遠征や現地合宿を繰り返し、本番への準備を整えます。
49erの牧野・高橋組は2回の世界選手権で僅差で枠を逃したので、これでようやく五輪本番への準備ができるとホッとした表情を見せていました。リオへはすでに2回行っています。リオは得意な風域ですから、また体重を元に戻してオールラウンドに走れる状態にして戦ってほしいものです。メダルレースと入賞を目指します。

49erFX女子の宮川・髙野はリオでのセーリング経験がありませんから、現地で練習やレースをする時間をできるだけ作り、男子同様に体重を増やし、サプライズレースができるように工夫していきたいところです。成績にこだわらず、思い切りよく、怖いもの知らずの若さを髙野に期待します。宮川はOP全日本チャンピオンになった時から、将来オリンピック選手になりたいという夢を追い続けてきました。470女子では近藤愛、吉迫に次いでの3位では代表になれないとあきらめた時もありました。ロンドン前には深沢と29er世界選手権に出て、オリンピックを見に行きました。スキフには小さすぎる体格といわれながらも、体重を増やし精一杯のチャレンジをしてきた末のリオ五輪代表です。厳しい戦いが待っていますが、得意とする風が吹いた時は前を走ってほしいものです。

日本からスポーツ庁の鈴木大地長官が日本チームの応援に来てくださいました。
東京2020が控えており、今年10月には江の島でオリンピックウィークがアジアサーキットの次の大会として開催されます。多くの選手たちはすでに東京をターゲットにしているのです。閉会式では、「欧米よりも先に日本へ行くぞ!」と宣言したアジアセーリング連盟会長のマラブ氏、そして「皆さんを日本でお迎えします」とメッセージを送った鈴木長官。8月のリオと10月の江の島での再会を合言葉に、アジア選手権は幕を閉じました。


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▲2月25日、コンテナ到着。自転車が入口いっぱいに入っている

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▲レーザーヤングチームはチャーター艇での参加。ほこり一杯、砂いっぱい

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▲計測はみんな軽く出て、補正重量が必要だった

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▲レーザーは練習あるのみ。一生懸命チャレンジしました

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▲開会式に行く前のヤングボーイズ

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▲UAEセーリング連盟の会長

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▲アジアセーリング連盟会長のマラブ氏

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▲ウイングの下が待ち位置の宮川と髙野

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▲中国チームとコーチボート。ブラジル№2のブルーノがコーチを依頼されていた

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▲ヤング北村とスタート前に話をする飯島コーチ

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▲レーザーは接戦の連続。1上はほとんど差がない

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▲首を冷やしてコンディショニング中の牧野

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▲よく見ると、北京49er代表の石橋さんがいる。松苗組のコーチをしていました

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▲いよいよメダルレース。安田をスタートに送る飯島コーチ。どちらも緊張している

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▲VIPボートから選手を応援する鈴木長官(右から3人目)に解説するマラブとユルキー

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▲表彰式で鈴木長官は活躍

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▲「本物の金メダルでモチベーションをアップしなさい」と、ユルキーがシドニー五輪で獲得したメダルを持参。「すごく、メダルがとりたくなりました」と髙野が言えば、「本物は初めて。オリンピックに行けるんだって。本当に行けるんだって」と言う宮川でした

(編集・文責:JSAFオリンピック強化委員会・広報)