期間:スキフ 2021年8月17日(火)~8月25日(水)
開催地:和歌山ナショナルトレーニングセンター(和歌山セーリングセンター)

第3回となる 第一期NF_HOPE育成プログラムはコロナ感染拡大に伴い、プログラム参加前に選手、スタッフ全員のPCR検査確認や毎朝の体温、体調チェック、抗原検査を実施し、感染防止対策を徹底してプログラムを行いました。
全国的に豪雨ではあったものの、予定されていた海上練習の全てを行うことができ、オリンピアンの直接指導、そしてオリンピアンと共にセーリングする機会を設けることで、短時間でレベルアップすることができました。
下記のように、6項目の講習会と東京オリンピック代表選手とのグループディスカッションなど多数のプログラムを取り入れて、細かい動きも含めて知識の向上を図りました。加えて、今回新たにセーリング技術講習を取り入れ、セーリング理論を学ぶことで「自分で考え行動できる」選手の育成を目標に取り組みました。

① 朝のウォーミングアップ
② 体力測定・フィードバック
③ インテグリティ講習
④ 気象講習
⑤ ECC英会話講習
⑥ グループディスカッション
⑦ ルール講習
⑧ 栄養講習
⑨ セーリング技術講習

■プログラムの内容
① 朝のウォーミングアップ(体温・体調チェック、ランニング、ラジオ体操)

▲朝の体調チェック
▲ランニング

朝のルーティーンは、体温・体重・体調チェック、ランニング、ラジオ体操です。細かい動きも含めて選手の体調の変化をトレーナーにチェックしていただき、ケガや故障、体調不良を未然に防ぐよう取り組んでいます。

② 体力測定及びフィードバック:講師 吉松大樹、石嶺忍

▲乳酸カーブ測定中:上園田選手
▲2,000mローイング:後藤選手
▲各選手のフィードバック説明
▲バランス講習:池田選手

体力測定は1回/4カ月を予定しており、体組成・乳酸カーブ・2,000mローイング・VO2MAXの測定を実施。前回のプログラム以降、各人でトレーニングの継続ができているかの確認、現状の体力状態を確認し、今後のトレーニングに関してのアドバイスとトレーニングプログラムの作成を行い、世界レベルのフィジカルを目標に取り組んでいます。

③ インテグリティ講習:講師 前園昇(リモート講習)

▲インテグリティの説明
▲リモートでの質疑応答

インテグリティ講習では、来るべき晴れ舞台に上がるために、今からインテグリティの意識をしっかり持って行動できるようにします。講習では「インテグリティとは何か」を細かく説明していただき、選手に質問や感想をのべてもらいながら知識の向上を図りました。

講習内容抜粋

インテグリティとは:高潔さ・品格・スポーツマンシップ(最高レベルの高潔性を持ち行動しなければならない)インテグリティの中に「ルール・コンプライアンス(ハラスメント)」が含まれる。
ルールとは:明文化されたもの。
コンプライアンスとは:明文化されていないルールを含む。
ハラスメントとは:相手がどう思うかによって判断される。
スポーツ:「日々の生活から離れる」気晴らしや遊び、楽しみ、休養といった要素を指す。
我々の行っているスポーツとは「運動を通して競技を楽しむ、真剣な遊び」
スポーツマンシップとは:3つの尊重 相手・ルール・審判を含む:試合を作る:達人)
勇気:困難や危機をおそれず、自らが立ち向かうこと。
覚悟:諦めずやり抜く事、自らの失敗に向き合うこと
他を尊重しよう!=施設の利用・食事・コーチ・その他の人の支えを尊重しよう。
Respect Others(尊敬)

④ 気象講習:講師 岡本治朗

▲積乱雲に関する説明
▲地図を使用し、風の入り方を考えた

その日の練習やレースを振り返り、雲の影響による風の入り方の基本的な考え方を、地図を使用し学び、レースエリアに影響する雲の動き方でその場の空気がどう動いているかといった変化を考え、応用できるよう指導を受けました。また、今回は雨雲が多く発生する状況が多いコンディションだったこともあり、積乱雲がどのように発達し、雨が発生した際におこる風の仕組みを学び、様々な雲の特徴をとらえて理解していくことができました。
選手たちは、前回の講習で雲をよく見るように指導を受けていたこともあり、出艇前の空や海上で意識的に上空を見る癖ができており、今回の講習ではより深い話まで落とし込め内容の濃い講習となりました。

⑤ ECC英会話:講師 山中直也(株式会社ECC)

▲ECC講師:山中さんのリモート指導
▲リモート個別指導:西田カピーリア桜良選手

前回は1名の講師による指導でしたが、今回はマンツーマン指導に切り替えたことで、限られた時間の中で講師と多くの会話をすることができ「英会話をもっと上手くなりたい」「自身の実力を確認できた」「次回はもっと話せるよう準備したい」など、前向きな意見が出て、英会話の楽しさと重要性を強く感じることができました。
次回のプログラムも選手が楽しく学べるよう、取り組んでいきます。

⑥ グループディスカッション:講師 小泉維吹、山崎アンナ、瀬川和正

▲小泉維吹選手とのグループセッション中
▲グループ発表:三浦選手

ディスカッションのテーマ
「東京オリンピックを経験して」感じたこと、学んだこと、NF_HOPE育成選手に伝えたいこと
上記3点のテーマを3グループに分けて15分ごとにオリンピアンから話を聞き、また質問し、選手が感じたことをグループごとに発表する機会を設けました。NF_HOPE育成選手たちは将来オリンピックを目指すために、さまざまな質問を投げかけ、オリンピアンは丁寧に受け答え、今後の活動に活かせる貴重な体験ができました。

選手コメント(抜粋)

・自分の本当の敵は自分、原因は全て自分にあるということを聞いて、自分を見つめ直すいい機会であった。(周りのせいにしがち)
・「これまでやってきたことしか(本番では)出せない」と聞き、日々の積み重ねの重要性をより感じた。
・メンタルに関しては、これまで本番に向けて準備してきたことがどこまでできているかによって本番で感情の変化が生まれるので、それまでの準備が本当に大切だと感じた。
・コンスタントに世界で順位を保つのと、直近で急成長している選手の違いを聞いて、非常に参考になりました。
・オリンピックでトップを走る選手は艇にオンボードカメラをつける、メディア対応する、ボランティアを意識してリスペクトすることができる選手が前を走っていたのが印象的だった等の話を聞いて、自分もリスペクトされる選手になろうと強く思った。
・オリンピックは艇数が少ないので、どれだけミスをなくし順位を安定させる事が大切なことを学んだ。
・「オリンピックでメダルをとることの大変さ」を改めて聞くと、今の活動のレベルをさらに上げて、日々積み重ね取り組んでいく自分自身の覚悟が重要なんだと思った。

⑦ ルール講習会:講師 吉本昌弘、前園昇(リモート参加)

▲実際のトラッキング映像を確認
▲トラッキング映像を使った審問講習

東京オリンピックで実際に起こったケースをいくつかピックアップし、トラッキング映像を確認。NF_HOPE育成選手には、今後、国際大会の審問では、トラッキング映像を見ながら説明できるよう対策していく必要性を説明し、今後のルール講習の取り組みについて以下の項目を学びました。
① トラッキングや映像を使った審問方法を学ぶ。
トラッキングを使って説明できるよう訓練する。
② フィニッシュ順位をしっかり守る選手になる。
抗議を出されたとしても規則違反になる可能性がない「安全なポジション」=「リスク回避がしっかりできるポジション」を頭の中で理解し、レースで使えるように取り組む。

2回の講習の中で、実際に審問練習を行い、細かい説明の重要性や、映像を自分で操作しながらの説明に戸惑っている場面もありました。まだまだ慣れない部分が多く、今後この変化にしっかり対応できる選手育成ができるよう、プログラムを構築していきます。

⑧ 栄養講習(第2回身体づくりのための栄養摂取):講師 武田哲子

▲栄養摂取に関しての講習
▲タンパク質基礎知識資料での説明

タンパク質に関して、骨格筋のタンパク質は1年後にはすべて分解されている、「食事で体を変える」ということは、体にとってより良い材料を摂取して、体の中身を少しずつ入れ替えて良い方向に作りかえるためのタンパク質の摂取方法と基礎知識を学びました。
日頃選手が何気なく食しているものに、どれくらいのタンパク質が含まれているのか等をテスト形式で楽しく学び、海上練習後にはリカバリーするためにはどのくらいのタンパク質を摂取しなければならないのか、自分の目標体重に合わせどのようなプロテインを選ばなければならないのか等の細かい説明を受け、知識が深まり、それぞれ選手が地元に帰っても取り組めるような実践的な講習でした。

⑨ セーリング技術講習:講師 鹿取正信(株式会社ノースセールジャパン)

▲鹿取講師のポーラカーブに関する説明
▲セーリング理論に関する説明

セーリング競技においてクラスを超えて共通する内容について講習をしていただきました。
まず、ヨットが上手くなるには何が大切かについて選手と話し合い、どうすれば上手くなるのかを考えました。「自分で考える力を養う」という、ヨットでは常に「何で?」と疑問を持って取り組んでいかなければ、世界で活躍する選手の思考に追いつくことができないことを講習の中で学びました。
2日間にわたり、セーリング理論のアパレント・セールカーブ、コントロールロープがもたらす影響、ウェザーヘルム・リーヘルム・ポーラカーブなど選手にとって非常に勉強になる講習を受けることができ、何となくぼんやりと分かっていたことも鮮明にイメージできるようになり、選手たちは講習の中で多くの質問をしていました。
セーリングのコンディションは常に一緒ではないし、相手もいる競技なので、自分のチームがどのようにすれば勝てるのか、様々な情報・知識を学び、引出しを増やすことで、自分で考え、自分のチームをすぐに修正できる行動が取れるセーラーになるために、今後このような講習会を継続し、選手の引出しを増やす取り組みをしていきたいと思います。

海上練習

▲出艇前のウォーミングアップ体操
▲軽快に走るNF_HOPE選手たち
▲強風では沢山の沈を経験しました
▲大雨の中でレース練習

久しぶりのプログラムであったこともあり、海上練習では、前半はコンビネーションがうまく取れずギクシャクしていましたが、日を追うごとに成長が確認できる良い走りになりました。20ノットを超える風も吹き多くの沈をしましたが、最後まで諦めず選手たちは逞しく、強くなりました。

発汗成分を基にしたスペシャルドリンク使用

今回、東京オリンピック代表選手が使用したスペシャルドリンクを提供いただき、練習中や練習後のリカバリー摂取を行い、体調維持に努めました。(陸上競技が2019年へ向けて開発したドリンクをセーリングも屋外競技として共有させてもらいました。)

【総 括】

コロナ対策として合宿参加2日前にPCR検査を行い、陰性を確認できた選手、スタッフ、コーチの参加を行い、期間中は毎朝の体温、体重、体調チェックで、体調の変化を朝一番に確認し、ハーバーでは抗原検査を全員が実施。陰性を確認してからプログラムに入るよう徹底した取り組みの中での実施となりました。また、各講習の講師の方々も同様にPCR検査、抗原検査を行い、プログラム期間中でのコロナ対策にご協力いただきました。
和歌山セーリングセンターの皆さん、スタッフ、コーチの皆さん、選手の皆さん、保護者の方々のご理解により無事にプログラムを終了できたことを改めてお礼申し上げます。
今後もこのような環境下での開催となる可能性が高いと思いますが、より安全な対策をしっかり取れる態勢をさらに構築していきたいと思います。

▲皆さんお疲れ様でした!

Report & Photo by 中村 健一

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