報告:斉藤 愛子
フィンランドからサリ・ムルタラ選手を迎えて、4月29日〜5月7日までの9日間、佐賀県・唐津の佐賀県ヨットハーバーにて海外選手招聘合宿を行った。唐津城はハーバーの正面。7月には世界のラジアルセーラーを迎える。
ゴールデンウィークをかけての合宿だったので、NT外の選手の参加も予定していたのだが、実際に参加できたのはNT3名(蛭田、長谷川、高橋)とラジアル男子のトップクラスである藤野選手の4名であった。
29日に集合し、30日から2日までは基本練習が中心で、スーパーショートコースによるウォームアップ、スタートラインを長くして1上までのコースを長くしたドリル1、スタートラインを短くして1上マークまでも短い中央スタートのドリル2、30分程度のショートコースレース練習を組み合わせて行った。この期間は審判の中野佐多子さんに混戦の1上マークで必ず起こるルール18条のケースを中心に見てもらい、ビデオ映像を見ながらルールの説明をお願いした。必ずポートでアプローチしてくる藤野選手がいくつも例題を作ってくれたので、ルールを読み返し、理解を深めることができた。また、スタートは常にラインスタートにして、中野審判がラインの後ろからスタート時の42条違反をチェックした。
3日はプレワールドレースの前日で、参加選手も到着してきたため、オープン参加にしてコース練習を行った。30艇が参加したが、風が弱く、3レースを行った後、早めにきりあげることになってしまい残念であった。
4日から6日はプレワールドレースに参加しながら、世界選手権への対策を考えた。ムルタラ選手は選手への指導を兼ねての参加であったが、軽風でも体重の軽い選手と十分に走れていたし、後半の強風ではラジアル男子の上位選手すら寄せ付けない強さを見せてくれた。特筆すべきは、ダウンウィンドのスピードで、世界1の技術を披露してくれた。
最終日の7日は初日からの進歩の度合をチェックしたが、乗り込んだ充実感とムルタラ選手の影響から得た自覚とがセーリングに現れていた。
「FIN」はフィンランド。サリ・ムルタラ選手は世界ランク10位の強豪ムルタラ選手はアトランタ五輪の際にフィンランド代表のトレーニングパートナーを務めており、当時は高校生だった。その後、シドニー、アテネの2大会はヨーロッパ級で五輪代表となり、ともに5位に入賞している。2005年からラジアル級に転向し、2007年には世界選手権で銀メダルを獲得したが、2008年の代表選考ではユース世代からあがってきた若手セーラーに敗れ、北京代表の座を逃してしまった。「オリンピック代表になれなかった時にはがっかりしたけれど、2008年はラジアル女子のヨーロッパチャンピオンになったので、自分の目標は達成できたと思う。2009年は世界1を目指しているので、この合宿では貴重なレースエリアの情報を得ることができた。日本の女子選手は熱心で、背も高い。体重も、トレーニングして上半身の筋肉量を増やせば十分世界にたちうちできるサイズだから、努力して追いついてきてほしい。」と、話すとおり、ムルタラ選手も、いい練習をしていった。プレワールドは参加118艇の中、全レース3位以内で、もちろん優勝。決勝での永井選手との一騎打ちをGPS航跡で記録したものは大会サイトで公開されている。
http://laserkf.web.fc2.com/preworld/preworld_menu.html
レースで落ち着いて走れていた長谷川選手。内側から抜いてトップにでた。3日間のレースでは、長谷川が予選を3位で通過。決勝の3レースが強風になると大柄の男性陣に抜かれてしまったのが残念だが、総合6位は練習の成果がでたもの。これから先も世界選手権を目指してスタート、ダウンウィンド、基本動作、レース運びに分けて、強化練習を続けていきたい。
ムルタラ選手のダウンウィンドは、波がなければバイザリーとクォーターを併用して少ないステアリングでスピードを重視している。そして、波に乗れるコンディションになると、スネーキングが始まり、バングが緩くなる。15ノットオーバーの決勝レースでは、常に動きを止めずに流れるようなハンドリングだった。10キロ近い体重差を生かして、アップウィンドで貯金を作っていた永井選手は男子の中ではダウンウィンドが速いのだが、1分近く開いた上マークでの差が下マークで6秒までに縮まるなど、ムルタラ選手がガストの中で加速していく見せ場はすごかった。日本女子選手達は、通常の合宿訓練だけでなく、実際にレースで生かせる技術をムルタラ選手から学ぶことができたと思う。
「あんた達、今日は何を取得したの?」と問いかけるサリに、蛭田が「タックで加速できました。」と小声で。もっと何かできたでしょ?と怒鳴るサリ。「Modest!」と、日本人がもつ控え目な発言流儀を教えてあげなければなりませんでした。ムルタラ選手はフィットネスにも十分に時間をかける。毎日のプログラムが決まっており、それを自分でスケジュールに入れていく。佐賀県ヨットハーバーにはトレーニング施設があるので、筋トレ、クールダウンにと、おおいに利用させてもらった。高校生の時に体育専門高校へ通っていたため、筋トレ歴は10年を超える。最近のトレーニングはコンビネーション動作が多く、基本のダンベル運動に加えて、ステップやひねりが入るなど、あきないように工夫がされていた。「私は何年も筋トレしているから、フォームも負荷の重量も把握して動作している。みんなは、もっと基本のところから始めないと、筋トレして、けがをするようなことになりかねない。基礎ができて、それをやりあきてから、コンビネーションをするようにしたらいい。」
唐津ワールドまで、残り2か月半。合宿では「世界選手権」という目標がはっきりしている場所だったので常に課題をもって練習に取り組むことができた。今後、平日はフィットネス、週末はセーリングという練習量で、世界に対してどこまで追い付けるものかわからないが、更に訓練を続けていくしかない。