Star European
スター級 2010年ヨーロッパ選手権大会
レポート:ナショナルコーチ 中村 健次
日 程:2010年6月5日~13日
開催地:イタリア・ヴィアレッジョ
日本代表選手:鈴木 國央(ヘルム/和歌山セーリングクラブ)
和田 大地(クルー/日吉染業)
参加艇:144艇
帯同NTコーチ:中村 健次・船澤 康隆
大会サイト:http://www.stareuropean2010.it/eng/
スター級ヨーロッパ選手権大会、7日からレーススタート
名実ともに今年度世界選手権
2010スター級世界選手権は1月にブラジルで開催されましたが、参加艇数が少なく、今回のヨーロッパ選手権が実質の今年度世界選手権と目されています。
大会には144艇がエントリー、名実ともにワールドレベルのビックフリート大会です。
●出場チーム
鈴木・和田チームは5月末に開催されたデルタロイドカップ(オランダ)に引き続き、今大会に臨みます。北京オリンピック出場を逃し、悔しい思いを次のロンドンオリンピックに向け活動しているチームです。昨年より体重も合計13kg増量し上位チームに劣らない巨漢ペアになりました。
●現地状況
開催地ヴィアレッジョはフィレンツェから電車で約90分、カーニバルでも有名な海辺の高級リゾート地です。
マリーナ近くにはメガヨットの造船所があり、多くのセレブリティーたちがマリンレジャーを楽しんでいます。また、マリーナ横にはビーチもあり、夏になると隣国のスイス、オーストリア、ドイツからも多くの人々がバカンスに訪れます。車で30分走ればあのピサの斜塔もあります。
気候も温暖で過ごしやすいのですが、風があまり強く吹く場所ではなさそうです。
●レース
7日からレースが始まります。スター級の基本(クラス協会主催の大会)は1日1レースですが、1レース2時間掛かるレースで10ノットの風が吹けば2マイルの距離になります。
鈴木・和田組はその技量・実績もさることながら、ビッグなコンビとして国内セーリング界の人気チームです。ディンギーもキールボートも軽々こなしています。國央と大地に良い風が吹くように応援してください。
マリーナ横の川に架かる歩道橋、ヨットが通れるように橋の上げ下げが出来ます。計測を終え、昼ごはんです。このメンバーでヨーロッパ選手権に臨みます(左から船澤コーチ、國央、大地)
マリーナの様子、右に見えるメガヨットがたくさん係留されています。
1日目
軽風の中、大会開幕
鈴木・和田組苦戦の初日
圧倒されるSTAR級のフリートレース
上マーク近くは下マークの三分の一の風しか有りません。世界中から集まった150艇近くのstar級が同時スタートするためには、およそ1400メートルのラインが必要です。運営側もスタートをコントロールするために、中央に本部船、左右にリミットマークを設置して運営を行うといった大変なイベントです。選手そしてサポートする私たちも何時にスタートするか分からないくらい広いスタートライン。最初のスタートでは半数のセーラーたちは時間が分かっていなかった様です。
オリンピッククラスとしては異常とも思えるフリートレースですが、STARセーラー達は当たり前のようにスタートをします。STAR級セーラーのプライドなのかもしれません。
レース海面はビーチから1マイル程度、コースの長さは2マイルで上マークはシーブリーズでしたから、岸から3マイルの所に上マークが設置されました。
今日は薄曇が空を被い気温が上がりませんでしたから、終始弱い風でのレースとなりました。スタートライン近くは8~10ノットの風がありましたが、上マーク近くでは3ノットと非常に弱い状況でした。(岸近くの風が強く、沖に出ると風が弱い)この現象は、日本でも夏によく見られる風下側(岸)から沖合にブローが広がって行くパターンです。
今日は14時スタート予定(1日1レース)でしたが、風が徐々に右にシフトしたために、スタートの延期が続き、結局14:31にリコール艇ありでスタートしました。鈴木・和田チームは右側のコースを選択しましたから、スタートは右側のリミットマーク側をねらっていました、その周辺の艇団が混戦になり、スタートポジションをとれずフレッシュな風でスタートする事が出来ませんでした。
大フリートの中、何とかフレッシュな風を掴み、1上マークを40位前後で回航したものの、混戦の中からなかなか抜け出す事が出来ませんでした。
さらに、2回目の上マーク近くでラルにつかまり大きく順位を落とす結果となりました。
鈴木國央曰く「なんで遅れたか分からない??難しかった…」
軽風のレースは本当に難しいと思います。フリートが多くなればなるほど艇間の距離が長くなりますから、ちょっとのシフト、ブローの強弱で大きく差が出ます。
当たり前と言えば、当たり前なのですが、一度、ヨットの『原理原則』=『風が強い方がヨットは早く進む』を思い出してレースに臨めば必ず良い結果が出ると思います。
幸いに國央・大地チームのボートスピードは悪くありません。気持ちを切り替え明日また頑張ってもらいましょう。
成績ですが、レポートの時点で未発表です。ご了承ください。
大会サイト:http://www.stareuropean2010.it/eng/
スタートして10分もすると何処に日本チームが居るか分からなくなります。スタートラインが長すぎて、すべてを写す事が出来ません。
2日目
大会は軽風シリーズか?
2日目も軽風、スタートよければ結果も出せるはず
スター級のアップウインド。9ノットを超えるとメイントリムの代わりにランナーでメインセールのコントロールをします。小回りの利かないスター級の混戦に入るとどうにもなりません。2日目、風速は変わらず、軽風のレースとなりました。
昨日の風向230°より40度左のW270°(岸に対して45度に入る風)の中レースがスタート。昨日同様サーマルの風と言える風の入り方でした。風は沖に出るほど弱くなりますが、昨日よりは岸と沖の風速の差は有りませんでした。
2マイルのレースとは言え、130艇以上のスタートで出遅れるとなかなか挽回するチャンスが少なくなります。鈴木・和田組が今回苦戦しているのはスタートでの遅れそのものだと思います。スタート前のスピードテストでは負けていないからです。ただ、別の要素を考えるとすれば、ジブセールのシェイプが気になります。それは、上位チームとイーブンな位置関係でスピードテストをして遜色ないとしても、混みあった中(苦しい条件)でそのタックを走る事が出来るか?
帯同中の船澤コーチもそこに着目していました。皆浅くタイトにトリムして高さを維持して苦しい場面を乗り越え、次のシフト(パフ)を掴むまで我慢できているではないか?
気持ち良く走るのではなく、『勝つための走りをしなければならない』ということです。
それにしても、彼らのレース結果は散々です。これが国枠獲得のオリンピック選考で無くてよかったと安堵しているのも事実です。
今回、初の試みでピンポイント気象データ配信会社(USA企業:コマンダー)の情報アドバイス(50ドル/日)を受けています。しかし、軽風域ではなかなか風の変化とレースとの関連がマッチしません。船澤コーチ曰く「多少時間のズレが有ってもこんなにはずれる事は無かった」との事です。
■2日目終了時の成績 エントリー132艇
鈴木國央・和田大地組(和歌山セーリングクラブ・日吉染業)
64‐99 163点 83位
大会サイト:http://www.stareuropean2010.it/eng/
3日目
3日目、鈴木・和田組に笑顔が
よいスタートが良い結果を生みました
國央・大地の下マーク回航。今日はこの回航でも順位を確実に上げました。3日目は205°の風向でスタート。昨日よりも少し風速が強く8~9ノットのレースとなりました。
彼らは昨日までの反省を生かし、しっかり一線でする事を実行してくれました。1400メートルのスタートラインの中央右寄りからスタート。フレッシュな風を掴み5分間しっかり走る事が出来たので、良い風を見つけながら上マークは30位程で回航しました。その後も徐々に順位を上げ2回目の上マークでは、20位と順位を上げるもののマーク直前で抗議されペナルティー2回転をせざるを得なく30位に順位を落としてしまいました。
その後、風軸が左に10°変化したために2下マークでC旗195°にマーク変更されました。幸い、國央・大地組はダウンウインドでの風の入り方を冷静に判断出来ており、最終の上りでは左コースを選択し大きく左のコースを取る事が出来て一気に14位まで順位を上げる事が出来ました。
総合でも50番台にまで上げて来ました。
昨日とは全く違うレース運びが出来た理由はやはりスタートがよい事、それと、下マーク回航で混戦の中、しっかり内側を回れた事がよい結果を生んだのだと思います。
ふたりの顔に笑顔が戻った事がコーチとしては何よりです。
明日もよいスタートをして良いレースをしてもらいます。
■3日目終了時の成績 エントリー132艇
鈴木國央・和田大地組(和歌山セーリングクラブ・日吉染業)
現地9日深夜現在 未発表
大会サイト:http://www.stareuropean2010.it/eng/
4日目
上昇機運の鈴木・和田組 6位フィニッシュ
総合36位に浮上
スタートが良すぎたため上マークでブラックフラックの確認をしている國央・大地第2下マークはかの有名なロバートシェイド(オリンピック金メダリスト)の後ろで回航する。後続艇が遥かかなた。大会4日目。朝は東寄りの風が14ノット近く吹いていましたが、スタート予定時刻の13時には風が右に振れ出しAP旗で待機。グラディエント(気圧配置)かサーマル(気温差・陸風海風)かどちらがまさるかで風向が決まると見ていましたが、結局その中間の風向200°8~10ノットの安定した風の中、15時過ぎにスタートとなりました。
昨日の14位フィニッシュで自信を取り戻した鈴木・和田組は前半戦の反省を生かし、今日も一線(トップスタートに近い)で飛び出し、3分後にはトップ10の位置関係でフリートをリードし1マークを6位で回航しました。
スタート後の風軸は190°前後で安定していましたから、ダウンウインドでもレグが偏っていたのでコースも分かりやすく、順位をキープ出来ました。左寄りのプレッシャーが良いと判断し、2回目の上りも左寄りのコースを選択、レグの1/3では下マーク回航後右のコースを選択した2・3・4位の前を切り一時は2位まで順位を上げましたが、その集団を受けるかトップと勝負をするか「けっこう悩んだ」(鈴木國央)そうです。私・中村としては2位を確保し、トップがどこで受けるかによってチャンスを伺う方を選択して欲しかったと思いました。レース後、そのあたりについてはしっかりミーティングを行いチームの戦略を検証しました。
多少の前後も有りましたが、6位フィニッシュ。120艇以上を後ろに従えた二人の顔にも充実感があふれていました。日本チームが前を走る事は本当に嬉しい限りです。
「やった!ニッポン!」っていう感じの4日目でした。
実力は有りますから、今後どんどんレースに出てレース勘を養ってほしいと思います。
また、明日もよいスタートをしてさらに上を目指してもらいましょう。
■4日目終了時の成績 エントリー132艇
鈴木國央・和田大地組(和歌山セーリングクラブ・日吉染業)
64-100-14-6 184点 36位
大会サイト:http://www.stareuropean2010.it/eng/
6位でフィニッシュ。レースを終え満面の笑みでコーチに応える2人。
5日目
風振れ味方せず、風も無くなり…つらいレース展開
鈴木・和田組、通算順位を落とす
抜群のスタートをするも、その後大きく風が左にシフトして厳しいレースになりました。4レグ目のダウンウインド。風がまったく無くなり順位を落としてしまいました。辛かったです。朝は南東寄りの風が10ノット近く吹いて、スタート予定時刻の13時には220°、風も安定。すぐにレースが始まるかと思っていたところでしたが、そこから右に振れ出し、風も弱くなってしまいました。ここでの強い風は期待できませんが、なぜシーブリーズが弱くなるのか?理解できません。風が弱くなってからは風速3ノットで風向も安定せず、海上で3時間風待ち。結局、16:10に5ノットの風の中スタートする事になりました。
230°のコースセット、風軸220°の条件でしたから、鈴木・和田組は風が右に振れ戻ると判断、右サイドのピンエンドから素晴らしいスタートを切り、即タック。まわりの艇の風を奪いどんどん先行して5分後にはトップの位置になるのではと思う状況でした。しかし、不運にも風が戻る事は無く、逆側200°までシフトしてタックを返すチャンスが無くなってしまいました。彼らは左集団が大きく先行しているのを見て取って、左から来るポートタックの集団の後ろを我慢して通り、風のよい側に遅れながらも行きつき、なんとか1マークを90位程で回航しました。そして、その後のレグでも順位を上げ、2上マークでは60位まで上げました。
18時を過ぎたころから風が弱くなり一向に進まない状況におちいり、時おり入るパフで少しずつフィニッシュに向かってくる、そんな感じでした。もはやレースというより運だめしに近いレースとなりました。つらいレース…79位フィニッシュでした。
夕食時、ふたりは、現状の問題点(コミュニケーション、必要な情報収集、役割分担など)について長い間話し合っていました。これからどんどん「進化していくチーム」になると思います。
今日の成績は振るいませんでしたが、課題のスタートは見違えるほどよくなりました。また、レース勘をモノにするためには「多くのレースに出場すること」も今後の大きなテーマです。
明日は最終日です、よいレースをして順位を上げたいと思います。
■5日目終了時の成績 エントリー132艇
鈴木國央・和田大地組(和歌山セーリングクラブ・日吉染業)
64-(100)-14-6-79 184点 41位
( )はカットレース
大会サイト:http://www.stareuropean2010.it/eng/
最終日
鈴木・和田組 総合42位で大会を終える
明確になった課題
大会最終日。定刻通り13:05に230° 6ノット前後の風の中でスタートしました。
スタートは一線で出たものの、NZLのワールドチャンピオンの風上からスタートになってしまい、我慢しきれずタックを返さなければなりませんでした。最初の上マークまでは10°程左に風が振れたため、40番前後°の回航でした。回航後徐々に右に振れ始め、下マーク近くでは290°近くになり、1レグ目でこの変化があれば順位はもっと上位だったのにと風を恨みました。その後、1下マークでC旗が掲揚され、コースも片レグ。ついに順位を上げるチャンスが無くなり、37位フィニッシュでこのヨーロッパ選手権を終えました。
スタートの飛び出し、ストラテージ選択やタクティクス。ヨットレースには様々な要素を受け入れた上でレース組み立てをしなければなりません。
彼らにはそれなりの進化は認められますが、まだ足りないモノが有ります。それは「スキルアップ」そのものだと思います。海外の選手に比べレース出場数の少ないチームにとって、大きなマイナス部分です。
鈴木・和田組の次の戦いは一週間後のキールウイーク(ドイツ:ワールドカップ第6戦)です。8月には次期オリンピック会場で開かれるスカンジアレガッタ(英国・ウェイマス:ワールドカップ最終戦)に出場します。世界のハードルは高いのですが、どんどんチャレンジ精神を持って取り組んでいってほしいと思います。実戦あるのみです。
最終日、あいにく写真記録ができませんでした。
大会期間中応援くださいました皆様に感謝いたします。
■大会成績 エントリー132艇/全6レース
鈴木國央・和田大地組(和歌山セーリングクラブ・日吉染業)
64-(100)-14-6-79-37 200点 42位
( )はカットレース
大会サイト:http://www.stareuropean2010.it/eng/