ラジアル女子世界選手権
ラジアル女子世界選手権大会
in唐津 報告:斉藤 愛子
日 程:2009年7月25日~2日(レース:予選7月28日~30日・決勝31日~8月2日)
開催地:日本・唐津
出場者:蛭田香名子、長谷川哲子、高橋香、田畑和歌子、近藤愛、才木雪代、石川あゆ美、多田桃子、長堀友香、川副温子、鬼塚弥那美、河原由佳、石川智香、富部柚三子、萩原絵美、松苗幸希
参加艇数:88艇
大会公式サイト:http://www.karatsu-sports.jp/yacht/
成績サイト:http://www.karatsu-sports.jp/yacht/result.html
88艇30カ国の参加。通常の120艇からは数が少ないものの、オリンピック種目にふさわしく、上位選手は全員顔をそろえている。予選では88艇を2グループに分けてレースを行い、決勝では上位と下位(ゴールドとシルバー)に分かれての勝負となる。
開会式に参列した日本チーム。今回は16名が世界に挑戦します。日本からの参加は、地元開催となり、通年3名の選手枠が16名に増えている。
蛭田香名子、長谷川哲子、高橋香、田畑和歌子、近藤愛は2009年NT選手である。近藤、田畑は470女子チームでのNT選手だが、昨年11月のラジアル予選に参加して権利を獲得した。
才木雪代、石川あゆ美は北京五輪までのNT選手で、現在は国体強化が中心に活動している。レーザーの国内大会にも参加している。
多田桃子、長堀友香はユース選手で、女子世界選手権の後に引き続き、ユース世界選手権に参加する。
川副温子、鬼塚弥那美はともに唐津でヨットを学んだセーラーで、ISAFユースワールドで日本代表としてレースをした経験をもつ。
河原由佳、石川智香、富部柚三子、萩原絵美、松苗幸希は初の世界選手権である。
唐津駅南口の近代図書館前広場で開会式が行われました。
1日目
絶好調の走りで、9位につける才木選手。表情に自信がみなぎってきました。88艇、30カ国の選手が2グループに分かれ、予選レースが始まりました。今日は曇り空のもと、北からの弱めの海風で2レースを行いました。
11時半スタート予定でしたが、330度から吹き始めた海風は少しづつ右へシフトしながら強まり、海上待機でスタートが延期されました。10度でほぼ安定したところで、12時15分に最初のグループがスタートしましたが、すぐに右へシフトしたため、2グループ目は25度に打ちかえたコースでのスタートとなりました。風はこの後、安定し、15度から35度の間で短い周期変動ながらも安定しており、初日は無事に2レースを終了しました。
今日のヒロインは、昨年までNTで活躍していた才木選手です。5回目のチャレンジとなりますが、得意な風域で稼ごうと、今日は積極的にレースしました。素晴らしいできで、第1レースは5位でフィニッシュ。リコール艇が前にいたので、成績はさらにあがり、3位。第2レースも途中までは8位を走る快進撃だったのですが、最後に5マークからフィニッシュまでの間に風が弱いサイドへのばしてしまい、数艇に抜かれてしまったのが惜しかったです。それでも、初日2レースでのトータルで9位は立派です。
NT選手は用人深くなっていたり、スタートで出遅れて翻弄されて自分のコースが引けなかったりと、苦戦していました。過去に出てきた世界選手権よりはよくなっているものの、今年のメンバーは各国のエース級しか出てきていませんので、ミスは致命的です。軽風でも角度をとって上ってきますし、波があっても、がっちり引き込んだメインを緩めることなく、ステアリングとバランスで走りきってしまいます。
470エースの近藤がラジアルワールドの洗礼を受けました。でも、チャレンジする中で、得ることも多々あります。470からチャレンジしてきた田畑は、この走りについていかれず、「もう少し吹いたほうがいいです…」と、ハイクアウトできる強風を期待しています。近藤は、「スピード差が少ないけど、じりじりと前へ出られて、シフトがきたらポンとかえされて、差がついていく。これが、レーザーラジアルかって、勝負どころがわかってきました。」と、470とラジアルの差を理解しつつあります。
明日も予選2レースを予定しています。雨の予報ですが、この梅雨は、いつになったらあけるのでしょうか?
2日目
10時50分にV旗が降り、すみやかに出艇していきます。R3,ブルーフリートのスタート。リコール艇は039の1艇だけでした。大会2日目は2レースが行われました。毎朝、9時からのコーチミーティングでは、最初に私が準備してきた天気予報を英語で外国人コーチ達、ジュリー、運営代表のメンバーに発表します。今日は低気圧と前線が唐津付近を通過するため、朝5時半には雷雨がありました。予報では南西の風が時計まわりに北西へ変化、通過後は北から北北東の風が15-20ノットというものでした。これ、ビンゴで、10時50分にV旗がおり、12時5分にイエロー、12時30分にブルーがR3をスタートしました。
R3は非常に長いコースで、トップ艇のサリ・ムルタラ(フィンランド)でも1時間15分かかりました。途中から風が落ちてしまいましたが、どこからきたのかわからないような巨大な波が唐津湾に押し寄せ始めました。イエローはサリがトップでしたが、ブルーはビクトリア・チャン(シンガポール)が1位をとりました。ビクトリアは3年前に4.7ワールドで優勝した選手ですが、前回のニュージランドでも好成績を収めています。シンガポールはユースを強化して、オリンピックのセーリングで金メダルをとるという目標を掲げていますが、5年がたち、着実に成果をあげています。日本にも、こういった長期戦略が必要な気がします。日本はシングルハンドに乗るセーラーを育成するしくみがいまひとつ確立できていません。今は、すでにでてきている人を集めて強化していますが、OPから始まり、一貫で教えてることの重要性を感じている次第です。僅かな技術の差を競うラジアルでは、ミスを減らすことや、レース上手でないと国際レベルでたちうちできません。見えるところまできている敵なのですが、届きそうで届かないもどかしさがあります。
R4はやや短めのコースで、イエローはシュー・リージャ(中国)、ブルーはマイケン・シュッテ(デンマーク)がトップでした。リージャは今回、中国からの唯一のエントリーです。髪をやや茶色に染め、パーマをかけて、すっかり大人びたイメージチェンジでした。デンマークチームは毎日、ごはんにサラダを載せたお弁当を持参してきます。スエーデン人のコーチがついて、ユース選手から強化してきました。
多田桃子(JPN061)と才木雪代(011)の前をいくのはEvi(BEL)、ヨーロッパ選手権3位の選手です。今日は多田桃子ががんばりました。成績には残りませんでしたが、2レースとも1上マークを15位、18位で回りました。ダウンウィンドがまだ、オリンピックレベルの世界基準に達していませんが、12ノット前後ではアップウィンドで大人顔負けのパワーを見せていました。また、高橋香、才木雪代もR4は良いスタートから1上マークをトップ10で回航してがんばりましたが、風速があがってくると2上へのレグで海外勢にやられてしまいました。才木は昨日の貯金がありますから、32位です。日本選手の中で唯一、ゴールドフリートの順位で4レースを終えました。
明日は予選最終日になります。4レースを終了したので1レースカットになりましたが、残り2レースでゴールドフリートに残ることが、明日の目標になります。この世界選手権は、北京五輪代表と各国のNo.2や新しくエースになりつつあるセーラーばかりが集まり、非常にレベルが高いです。特にスタートのラインのジャッジメントは驚くほど正確です。本部艇とアウター船のスリットポールが高くて見やすいこと、またスタートラインがほぼ直角に打てていることが手助けで、みんな、ラインにぴったり合わせてきます。
ヨーロッパチャンピオンのティナ・ミヘリッチ(クロアチア)は、オランダから「スタート前に後方から追突した」と抗議され、審問の末、失格となりました。上位選手間では、予選の段階から、ライバルに厳しいです。
そろそろ梅雨が終わってもいいのですが、明日は、久々に晴れてくれるのでしょうか?11時半スタートの2レースを予定しています。
3日目
今大会初のゼネリコ。ついつい前へ出てしまうのが予選最終日の常です。予選最終日は朝から北東の風が15ノット吹いており、時折小雨まじりながらも、11時30分の定刻どおりにレースが始まりました。最初のスタートは、今大会では初のゼネリコとなりましたが、予選最終日ともなると、僅差でボーダーラインにいる選手にとっては運命の1日です。前にでてしまうのは仕方ありません。2回目のスタートはブラックがあがり、イエローグループが無事にスタートすると、ブルーグループは1発クリアで出て行きました。
スタートしてから、ほとんどの艇が右へのばしていきます。唐津湾は北風が吹いたとき、地形の影響でガストが東側から入りやすく、しかもそれがリフトで入ってきますから、右海面を中心に組み立てていかなければなりません。もう、海外の選手もみんな、その事実を知っていますから、今日は右勝負の右展開になったわけです。列をなしてよせていくため、スピード勝負となりました。
今日は強風に強いサリ・ムルタラ(フィンランド)とソフィー・ド・トゥルケイムが15ノットオーバーで波が大きいコンディションの中、爆走を見せました。ソフィーは両レースともに1上マークから前に出ると、そのまま、ぶっちぎりの豪快な走りでしたが、サリは途中、ベルギーのエヴィやフランスのサラにリードされながらも、世界1のダウンウィンドの波のせテクニックを見せつけて、堂々フィニッシュまでにトップにでる走りでした。イエローグループのR6は昨日に続いて、中国のシュウ・リージャが僅差でリードを守りました。
予選をトップで通過したXu Lijia (中国)。これで予選6レースが終了しましたが、シュー(中国)が2点差でリード、ムルタラ(フィンランド)、タニクリフ(アメリカ)が同点で2位になっています。今日、1位を2回とったソフィー(フランス)が1点差で4位です。ゴールドフリートには44艇が残りますが、ポイントは91点と、1レース平均が18位計算になります。これは、ゴールドに残れた選手達が1レースしか悪いものがなく、レベルの高いフリートであることを示しています。2レースが中軽風、2レースが中風、2レースが強風と、バランスのとれたレースでしたから、結果は実力どおりということでしょう。
日本の才木雪代は、初日の軽風でスーパーな頑張りを見せて9位につけていましたが、昨日の2レースで32位に後退、今日は吹きの中で崖っぷちまで追い込まれてしまい、ゴールドに残ることができませんでした。「あと8点足りなかった。すごく悔しい。最初のワールドがブラジルで、今回で4回目。絶対にゴールドに残りたかった。初日、あんなに貯金したのに、それでもだめだった…」と、涙ぐむ才木選手でした。
田畑のランニング。ちょっとしたコツを覚えて、今日は順位をキープできました。日本チーム16名は全員、明日からシルバーフリートで戦うことになりました。田畑和歌子は今日、18位を2回とりました。1上では20位ながらも、順位をキープできるようになり、特にダウンウィンドでのスネーキングでスピードを保てるようになったことがよかったです。ラジアル女子は、トップ15艇が第1グループ、そのあとの30艇が第2グループ、それに続く第3グループというようにスピード差で集団になります。第1グループはサリ、ソフィーを筆頭に特に強風では絶対的な強さを発揮します。第2グループの集団は、今日の田畑がやっとたちうちできるスピードでしょうか。したがって、明日からの後半戦、シルバーフリートでトップ10に入ることが、日本チームの大きな目標になります。ここで第2グループに追いつくこと、そして、今後、第2グループの上位を目指して、そこからトップグループがやっとみえてくることになるのでしょうか。
トップグループは20ノットの風でも、メンシートをゆるめずに、しっかりと起こします。ボートバランスは安定したまま、ステアリングで走るスタイルが現在の主流になりつつあります。結局、そのほうが風のシフトに対して敏感に対応できるわけで、位置取り、短い距離を走り、好きなコースを選択できるということになるのでしょう。トップレベルは20ノットを超えるまでメンシートは出さないで頑張ります。シュー(中国)は65kg、175cmですが、強い腹筋、背筋に加えてスピードをおとさないステアリングが見事です。ユース時代からラジアル級に乗りこんでいますが、このレベルに到達することは、今のように週末のセーリングだけでは不可能でしょう。今回は近藤、田畑が参加していますので、特に強く感じるのですが、オリンピックを目指すのであれば、470女子のように毎日練習できる環境を整えること、選手が毎日練習しても壊れない身体をつくり、練習を積み重ねることができなければ到達できないと思いました。来年、再来年と、各国エース選手達の練習量は増えて、レースへの参加も増えていくと、加速的にレベルがあがります。アメリカのライリー選手は全米No.2ですが、世界相手に以前のように簡単に前を走ることができなくなりました。日本選手の道のりは遠いものですが、乗る時間が増えなければ、絶対に追いつかないということは事実です。
明日から決勝レースが始まります。上位、下位グループに分かれて、それぞれが直接対決となりますので、大きなミスをした人から脱落していきます。明日も北東の風が安定して吹くと予報がでています。
4日目
今大会初のゼネリコ。ついつい前へ出てしまうのが予選最終日の常です。今日から決勝レースがはじまりました。ゴールドフリート44艇、シルバーフリート43艇、合計87艇です。天気は昨日よりも少し弱めの風ながら、安定した25度から30度の北北東風で、10-15ノットの中、2レースが行われました。11時35分スタートでした。
北風でのレースは3日目ですから、ほとんどの艇が有利なサイドを理解し、スタート直後に右へのばしていきます。今日は時折左から、短い時間ながらもガストが入ることがあり、右エンドよりも右集団の風下くらいに位置してスターボードでマークへ寄せていく選手が良かったです。
ゴールドフリートは2レースを行い、サリ・ムルタラ(フィンランド)が1-6、オリンピックチャンピオンのアンナ・タニクリフ(アメリカ)が2-10、1点差でサリが総合1位にあがり、アンナが2位です。昨日までのリーダーだったシュー・リージャ(中国)が19-2で4位へ後退し、変わりにフランスのソフィー・ド・トゥルクハイムが5-11で3位に上がりました。
「今日は1レース目は勝ったけど、2レース目は1上で失敗して、そこから6位まで追い上げられたので満足です。トップにはなったけど、アンナと1点差だし、ここからが勝負でしょ?私は唐津へ勝ちにきたのだから、得意な風で最後までいきたいです。」(サリ・ムルタラ談)サリは、5月のプレワールドにも女子チームの合宿のコーチ兼トレーニングパートナーとして来日しています。その時に来た理由も、「勝ちたいから…」でした。スタートから積極的で、超攻撃モードでレースに出ています。
今大会初のゼネリコ。ついつい前へ出てしまうのが予選最終日の常です。今大会初のゼネリコ。ついつい前へ出てしまうのが予選最終日の常です。中国のシューは、「今日は2レース目が2位でOKだけど、1レース目は大失敗。最低のできでした。」シューの強さは、非常に正確なステアリングです。サリが動とすると、シューは静の技のエースです。無駄な動きがなく、65kgでもしっかり艇をコントロールすることができています。腰痛があるため、後ろ向きに歩きながらのストレッチをし、しっかりと明日の戦いに備えているのが印象的でした。アメリカのアンナを含めて、この3人は過去3年間、ずっと、どの大会でも競り合ってきました。唐津でどうしてもタイトルをとりたいサリが意欲を燃やすのもわかる気がします。
シルバーフリートでは、田畑が見せてくれました。R7の1上で5位だったのが、2上で3位、5マークでは2位にあがり、フィニッシュも2位をキープ。「いや~、ダウンウィンドは気合でした。気合いで抜いてきました。J、フィニッシュ後の田畑の第1声です。また、スタート前にコンパスがとれてしまった長谷川は10位、フィニッシュ手前で1艇を抜いてあがってきた蛭田は12位で入りました。
多田はR7のスタートしてすぐにアメリカ艇と接触し、相手のメンシートトラベラーブロックを壊してしまったため、ペナルティーターンをしたものの、救済を要求したアメリカが重大な損傷とみとめられ、多田が失格になり、アメリカが救済されました。
夕方からクラスミーティングが行われ、大会についての意見交換がされました。また、引き続き、セーラーズパーティーでは唐津市民によるお茶会も開かれ、海外からの選手や家族、スタッフも抹茶にチャレンジしました。
明日も同じような天気でしょうか。唐津の梅雨はまだ明けてないような空です。衛星画像には台風のような渦が太平洋側に見えてきて、今年の夏はどうなってるの?と、いいたくなります。
5日目
唐津城をバックに霞の中のレース艇。8月とは思えないほど涼しい夏です。今日も唐津は曇り空で、時折日差しがでたり、小雨がぱらついたりでした。ここまで、毎朝の気象情報は完璧で、予報士・岡本治朗
さんに感謝です。R9は35度設定、R10は30度設定で2レースを行いました。風速は11から15ノットで、場所によっては18ノットのガストが入りました。
昨日までのレースエリアはほぼ全艇が右でしたが、今日は時折、左からのガストも入ってきたので、中心よりも右海面ながらも、右端までいかない場所でトップグループは勝負を展開していました。シルバーフリートは右へ突っ込みすぎて、オーバーセールで風上マークへ入ってきます。昨日はその方向からガストが来ていたのですが、今日は内側で最後に入ってくる艇が多くなりました。同じ風向でも、ガストの入
り方が少し違っていました。
サリは常に100%の攻撃モードでレースをしています。そして、心にともなう体力をもっています。ゴールドフリートはワールドタイトルをめぐって、たいへんなことになっています。
R9は中国のリージャ、R10はフィンランドのサリと、両艇ががぶり4つです。そして、R10はサリとリージャが抗議を出し合い、リージャが失格になりました。スタートの際の風上風下のケースですが、サリが下、リージャが上でした。ポイント上は5位のマリット(オランダ)まで優勝が可能ですが、サリの今回の勝負に対する執着心は半端ではありません。隙あらば、相手をつぶすという抗議の出し方でした。
リージャが3位に後退し、アンナ(アメリカ)が9点差でサリを追いかける2位です。
4位のソフィー(フランス)はBFDがついてリージャ同様にサリとのポイントが開いてしまいました。サリのコーチのフレデリックは、「リージャとポイント差ができたのは、最終日のレースが考えやすくなるので、良かった。アメリカのアンナも手ごわいので、明日もいつもどおりのレースをできるようにサポートするつもり」と言っていました。残り2レースで、トップ5艇がどう戦うのか。タイトルの行方は明日の2レースしだいです。
今日は才木が12−15と、よく走りました。15ノットでも外国勢に対して走れることがわかりました。田畑も体重を生かして、クローズでは圧倒的なスピードがあります。シルバーフリートでは、田畑、蛭田、才木ががんばりました。シルバーフリートの3位までの選手達は、大抵の大会でゴールドフリートに残るレベルの選手です。現在4位の田畑はレース中に以外と基本動作が上手くなくよろよろしている場面があるのですが、15ノットになると走りがつかめてきたせいか、弾丸のように走ってきます。また、今日は才木がセッティングを少し変えて走ってみて、昨日よりも順位がキープできました。「フィニッシュでマークタッチしてしまい、ばかでした。もったいなかった」とは才木の談です。
明日は、最終日です。夏が来る前に大会が終わってしまいますが、最後の2レースで、ベストなレースを戦ってもらいたいと思います。
6日目
努力とチャレンジ、そしてパワーを
2上マーク、R11。ここからサリがトップにあがり、最終レースを残して、優勝を決めた。R12がスタートするときにハーバーへ向かうサリ。勝べくして勝った後の安堵が笑顔にでていた。優勝したサリ・ムルタラは昨年のヨーロッパチャンピオン。世界制覇もなしとげ、ロンドンを目指すかどうか、じっくり考えるという。最終日の朝、いつもよりも少しそわそわした感じの陸上でしたが、トレーニング室の外で電話をかけるサリの姿がありました。ポイントは有利であるものの、米国、フランス、オランダ、中国から追われる立場の割には、一番落ち着いていたように見えました。
フランスのソフィーは艇が一番スロープ寄りにありましたが、唐津城をバックに、淡々とフィッティングをしていました。なにしろ、背の高い彼女ですから、ラジアルが小さく見えました。
結果からいうと、2009年のチャンピオンの栄冠はサリ・ムルタラに輝きました。勝つべくして勝った大会だと思います。北京五輪の翌年で、通年は休んでいる選手が多いのですが、今回は五輪代表がほとんど残っていました。サリは代表にもれたこともあり、今回のレースでチャンピオンになれなかったら、470クルーへの転向やマッチレースへ挑戦することも視野にいれていました。今回はどうしても勝ちたいと強い気持ちを持って唐津へ来ていました。その意気込みは口先だけではなく、はっきりと行動に表れていました。初日が終わった後、「今日は5月のプレワールドのイメージが残っていたためか、左海面のリフトを意識しすぎて展開が悪かった。明日からは、現実を中心に組み立てられるように、早めに海面に出て風のチェックをして、コースを決めたほうがよいと思っている。」との言葉どおり、毎日、先陣を切ってレース海面へ行き、風上マーク付近まで十分な距離をクローズホールドでのぼっていきます。ダウンウィンドでおとしてくるときには反対サイドへ行き、地形の影響を受けるレース海面の中で、よい場所を自分で選択していました。当たり前といえば、当たり前のことなのですが、それを実際にきっちり実行し続けたところに彼女の努力の跡が見られます。
サリは強風番長ですが、アップウィンドでは背の高いソフィーやベルギーのエヴィも十分なスピードをもっています。番長の強みはダウンウィンドで、R11も上マークはソフィーがトップで回りながらも、フィニッシュまでにダウンウィンドで抜き去っていくのです。アップウィンドでのコースミスは絶対にないと言い切れませんが、ダウンウィンドはスピード勝負ですから、このテクニックが本当の強さにつながっていると確信しました。
今大会は強風シリーズでしたから、フランスのソフィーも長身を生かしてのラストスパートが見事でした。また、オランダのマリット、ベルギーのエヴィも前半の取りこぼしを少しずつ帳消しにして、追い上げてきたのが立派です。中国のリージャは5位に後退しましたが、プロテストに巻き込まれることでペースを崩したことや、腰痛に悩まされての強風シリーズはつらかった様子です。3位のアンナはオリンピック後もワールドカップを中心に、比較的早い段階で調整を進めてきましたが、サリ、ソフィーと比べたら背が低い分、今回はつらかったと思います。また、ダウンウィンドで抜かれることも多かったように見受けられました。アンナの国内ライバルであるピージは、今回、得意な風域のはずだったのに、よいところがありません。どうも、米国チームは思い切って有利なサイドへ突っ込むようなレースはやりにくいようでした。
1ステップ前にでた才木。体重と体力をつけて、もう一度、チャレンジしてほしい存在です。後半になってから、ぐいぐい走りだした蛭田。新しい日本のエースに育ってほしい人材です。日本選手も吹きの中で、最後までがんばりました。予選の初日は才木が総合9位と見せてくれましたが、風が強くなるとともに後退してしまい、ゴールドフリートに僅差で残ることができませんでした。シルバーフリートになってからは、後半に入り、吹いても順位をキープできるようになり、この走りが予選の時にできていたなら、ゴールドフリートに残れていたように感じました。ぜひ、次もチャレンジしてほしいと思います。また、日本チームトップは元気いっぱいの田畑和歌子で、北京五輪が終わってから、シングルハンド、マッチレース、470クルー、しかも所属がアビーム社にかわり、人生が大きく変わっているところです。地元だから乗ってみたラジアルですが、1日ごとに技術を自分のものにしていく様は好奇心の固まりで、とにかく元気でした。サリもそうですが、シングルハンドは、このような身体からにじみ出てくるようなパワーがないと、進歩がありません。田畑に引っ張られるように蛭田、長谷川、高橋もパワフルに走ることが折々で見せられるようになりましたので、これからも体力をつけて、世界との差を少しずつつめていきたいと思います。470エースの田畑、近藤が苦戦していたラジアルですが、「ラジアルにはこれからも遊びで乗りたいと思います。ローカルなレースには出たいけど、世界選手権には私のようなアプローチで出ては失礼だと思いました。それくらい、トップの選手達はすごいです。」と、近藤は今回の経験を糧として、8月20日からの470世界選手権を見据えています。
高校生の多田、長堀はこれからユースの大会にも出ます。教えた準備体操とクールダウン、特に有酸素運動は必ず続けて、残りの大会も頑張ってほしいと思います。多田は15位前後で上マークまで到達したことが何度もありました。ダウンウィンドでのシーティングのタイミングも注意したらよくなりましたので、吹きのレースは期待できそうです。軽風はまだまだテクニックを磨く必要があるかもしれません。
来年の世界選手権は英国のラーグスで7月に開催となります。来年こそ、3名がゴールドフリートに入ることを目標に、また、基本からしっかりと作っていきたいと思います。この世界選手権のために、日本選手を応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。進歩しましたけど、まだ世界の壁に届いていません。それでも、手が届くところが見えてきましたので、負けずに、更なる努力をしていきたいと思います。続けることに意味があります。これからも応援をよろしくお願いします。
大会公式サイト:http://www.karatsu-sports.jp/yacht/
成績サイト:http://www.karatsu-sports.jp/yacht/result.html
Photo
ラジアル女子世界選手権
左:レーザーラジアル旗が入場。
右:木村会長の開会宣言により、唐津ワールドがスタートしました。
左:25日から計測が始まりました。日本の才木選手が1番目でした。
右:ラジアルロアセクションにプラスティック製のカバーを取り付け、
リグの消耗を防ぐ試みがされています。
左:ハーバー隣接のソフトボール場には30カ国の万国旗が並びました。
右:唐津くんちの赤い竜もレセプションに参列しました。
左:開会式後のレセプションで、中国のXuと話すのは長谷川哲子。
右:竜の前で、山崎会長を囲んで。
左:レセプションでは鏡開きが行われ、山崎会長(右)も木槌を振り下ろしました。
右:海上本部船は「まつかぜ」。
1日目
左:唐津のヨットハーバーに世界各国からの選手が集まりました。
右:第1レースのスタート。1発クリアで、数艇がOCSになったのみ。
まだ、ゼネリコがありません。
上マークを回航する才木選手。6-8ノットなら十分、勝負になります。
2日目
左:途中から波が大きくなり、うねりのようになりました。
沖は北風が強いのでしょう。
右:470とは勝手が異なる田畑。「今日は少し上位の選手についていけました。
ラジアル、予想通り、厳しいです。」
3日目
5日目
6日目
左:最終日の朝、ハーバーはいつもより、何となくせわしい。
右:毎日ハイクアウトが続いたシリーズで疲れが顔にでている近藤。あと1日です。
左:表彰台に上がった3名と、6位までに入賞した選手達。全員、175cm以上あるのでは?
右:ジャンルック・ミッションが閉会式のスピーチの中で、「日本は1974年から世界選手権に代表を送ってきたが、レーザーの最初の世界タイトルは2日前にブラジルのブジオスで4.7の女子選手が勝ちとった。おめでとう!」と、地球の反対側での日本選手の活躍を知らせてくれました