最終日
38th INTERNATIONAL 470 SPRING CUP
38回 国際470級 スプリングカップ
兼38回フランス選手権
Report &Photo:中村健次(オリンピック強化委員会:JOCナショナルコーチ)
総合7位で大会を終える
多くを学び 次のイエール大会に期待大
▲スタート直後(大会最終日5日目・4月14日)
本日は最終日、予想どおりの中風が入り11:05のスタートが出来ました。
北北東60°、12ノット~15ノットで1レースです。
【第11レース】
土居・今村はスタートラインの中央やや上目からの出遅れ気味でのスタートとなりました。その下手からNZL、USAがリコール(OCS)でスタートし、走りにくいホープレスポジションのため、早めのタックで右に行きますが、またしてもミートする船のリーバウを受けてしまいます。これが2・3度スタート後3分以内に有ると、もはや一線からは一段落ちてしまいます。判断は難しいですが自滅パターンは出来る限り避けなければなりません。
それでも途中から大きくコースを取り、1マーク手前で左(岸寄り)のブローを掴み7位で回航しました。ダウンウインドでも風を見ることが出来て来ているようで、相手につられず自分らの風を見つけて走ることができ、2艇をパスして1下マークでは5位に上昇しました。
ここからは格上チーム(ARG、NZL、GER)が前を走っていますから、そう簡単には追いつく事は難しいだろうと思っていましたが、私が前にもレポートで記した「今走っている風がどうで」「次のレグにいかに生かすか」が今日のレースでは出来ていた気がします。このような順位を上げるレースができたことは、精神的にも達成感が有りますし、レースが楽しい気持ちになれることはよいことだと思います。
その後、土居組はレース中盤からレースの組み立ても良くなり4着(結果はNZLがOCSだったために3位)でフィニッシュしました。総合成績でも2回の(BFD:失格)がありましたが、休みなしの5日間、11戦を戦い、総合7位はまずますだと思います。次のイエールワールドカップ(20日~)に向けて多くを学べた大会でした。さらなる飛躍に期待します。
【土居一斗 戦いを終えて】
今大会は前回のプリンセスソフィアでの反省点を改善すべく臨みました。まずは課題であるクローズのボートスピードに関してはセッティングや、トリムを少し変えることにより高さが良くなったと感じました。スタートに関しては二度もブラックフラッグを取ってしまいましたが、それで逆に学べたこともあったので、これからは自分達のスタートルーティーンを作り毎回実践できるようにしていきたいたいと思います。ほかの面でも改善できた所もありますが、別の課題も見つかりました。次のイエールでは2つの大会の反省をいかして、しっかり考え、修正できるようにしていきたいと思います。
【今村公彦 戦いを終えて】
前大会の反省をいかすべくスタートに重点をおき、攻めのレースを心掛けましたが、結果としてリコールを2度繰り返してしまいました。よい経験でした。今後は艇団に巻き込まれないよう、スタートラインの距離感や感覚をチームで話し合いながら向上していきたいと考えています。
【土居一斗・今村公彦組 最終総合成績(全11レース)】
http://nautic-event-capdagde.com/resultats
7位:(BFD28)-2-3-13-2-12-11-4-BFD28-4-3
▲1マーク手前、レグ中盤から追い上げ7位で回航(中央)
▲表彰式集合写真(1.ARG 7・2.GER 55・3.NZL 2)
▲1マークから2マークにフルスピードでトップ集団を追いかける
4日目
2度目のBFD
失敗と成功を繰り返し 「自分流」を見つけること
▲1レース目、良いスタートを切るが風下艇にメダリストチーム(大会4日目・4月13日)
昨日同様、11時スタート予定が13時に変更されました。それでも風が弱く、海上待機かと思っていたところ、南南東150°のコースセット、4~5ノットでスタート予告信号が揚げられました。がさらに風が弱くなり、1度はAP旗で風待ちとなりました。
【第9レース】
10分後には少し風も戻し4~5ノットで再スタートしますが、ゼネラルリコールで再スタート。次の準備信号では案の定ブラックフラック(黒色旗)が掲揚されました。
当地は考えられない程、風向が安定しています。それでも特に微風となると艇団は少しでも有利な側からスタートしようと群がります(今回の運営は基本的にリミット側5°有利に設定しますが、弱い風ではっプレッシャーの強いサイドに集団が集まります)。
土居・今村は上5番手からスタートをしましたが、風上艇が少しスタートラインに近づきすぎた事に気づかずつられてしまいしました。さらには下艇の突き上げに対しても下側のスペースを保つためにラフアップしたため、更にスタートラインに対し近い位置になり、バウを一線に保つためにラインをはみ出してしまいました。結果、上1スタートした艇を除き上から4艇がBFD(失格)。土居組はこれで2度目の失格ですから期待の表彰台は遠のいてしまいました。
【第10レース】
少しだけ風が上がり5~6ノット、スタート時には左からのプレッシャーが良く見え、艇団もリミット側に集まりました。
土居・今村は下2番手で絶妙なスタートを決めます。前レースの「BFDを気にしては攻めのレースができない」と、強気のスタートでした。直後に即タックして下スタート集団の前を切って行きます。
ここまでは良かったのですが、ミートする艇が増えてくるとリーバウを打つことが多くなり徐々に内々に入ってしまいました。どちらの風を使ってコースを取りたいのか分かりませんでした。結局、良いスタートをしても風を取りに行く事ができず、第1マーク12位と、なかなか彼らのポリシーを見出せませんでした。ダウンウインドでも攻める事ができず下マークも変わらずの順位。
ここ(2上)からこれまで反省を生かし、風を「よく見て」「大きくコース取り」をすることによって徐々にジャンプアップしてきました。艇速では少し劣るものの、他艇に左右されず且つよい風を掴み2上を5位で回航。直ぐ後ろにはメダリストが迫っていましたが、ここでも前日の反省を生かしスピード優先(マークに近づく)したことが奏功して4位でフィニッシュしました。
4日目を終えて総合順位は9位に落ちてしまいました。甘くありません。ただ失敗のあとのシングルは初日もそうでしたが、彼らの精神力の強さを表しています。めけずに前向きに進む姿勢には好感が持てます。
細かい修正はその都度して行きますが、やはり何度も失敗と成功を繰り返し、「自分流」を見つけ出せれば大きな成果だと思います。現時点の土居・今村にとっては成功か失敗かでは無く、「何故そうなったのか」を冷静に判断することこそが次へのステップに繋がるであろうと思います。
大会も残すところあと一日となりました。「学びが糧」です。
【土居一斗・今村公彦組 総合成績】(4日目10レース終了時)
http://nautic-event-capdagde.com/resultats
9位:(28)-2-3-13-2-12-11-4-BFD28-4
▲一気に挽回、4位でフィニッシュに向かう土居・今村
▲成績よりも成果(納得のいくレースができ安堵する二人)
3日目
軽風の3日目 5位に後退
調整途上の適正体重
▲1レース目、良いスタートを切るが風下艇にメダリストチーム(大会3日目・4月12日)
3日目、午前中風が無いと判断したレースコミッティ-は11時スタート予定を13時に変更しました。
土居組は出艇し海に出ましたが、やはり風が無く、私のコーチボートで曳航してレース海面に向かいました。
待つことしばらく、軽風の海風180→165°、6~10ノットの比較的安定した風の中で3レースが実施されました(予定より1レースは先行してよい帆走指示書となっています)。
今日の2レースは苦しいレースとなりました。と言うのは国際的な470級男子の適正体重130~135kg(私の経験値では、軽風域から強風域までオールラウンドで戦うため)を目標としている土居・今村は現在体重調整中でありながらも、現時点ではまだできておらず、9ノットを境にして風速が落ちるとボートスピードが落ちて上位チームや軽い女子チームについて行けませんでした。よいスタートを切るものの徐々にフレッシュエアーで艇速が落ちてくる様子が垣間見られました。
【第6レース】
コース180°セット、スタート前は10ノット近くまで風も上がりましたが、スタート時には7ノット前後まで弱くなってしまいました。ここで土居組がもう少し考えなければいけなかったことはロンドンメダリスト艇のすぐ上側から出てしまったことです。結果、スタート1分後にはホープレスゾーンに入ってしまい1線から徐々に下がってしまいました。
もう一つのミスは、フリートの中盤で1マークを回航しダウンウインドで先行艇の反対タックでチャンスを作りましたが(ランニングで相手側にシフトする事)、自チームに有利な風を掴んだ時に「少しラフアップをして少しでも前に出る走らせ方をすれば良かった」のですが、そのまま相手艇に対し同じ角度・スピードで走らせてしまったことから、そのチャンスを生かす事ができませんでした。チャンスが有る時には「勝ちを決めるポジションに持って行く」アイデアが必要でした。12着でした。
【第7レース】
このレースも6ノット程度の風でスタートしました。第6レース同様、スピードがついて行けずに苦戦して11位フィニッシュとなりました。
冒頭で述べた様に適正体重=物理的な面で不利な状況になってしまいます。このレースで女子チームがトップ10に3艇入ったことでもそれは明らかです。
【第8レース】
少し風速が上がり、10ノット近くの風の中でスタートしました。この風になるとアップウインドは上位チームと引けを取らないボートスピード(VMG)が出せていますからスタートの失敗さえ無ければ後はレース展開で勝負ができます。彼らはスタートも下寄りから飛び出し、フリートの動きに合せたよいレース展開で1マークを2位で回航しました。
しかし、ダウンウインドではスピードがほんの少し劣っています。集団の中では徐々に追いつかれる展開になってしまいますから、相手艇に対し「高さよりもスピードを上げ、次のマークに近づけること」を優先的に考えるべきでした。勉強の4位フィニッシュです。
体重コントロールや体力強化は直ぐに出来ることではありませんが、土居組は計画的に目標達成に向け取り組んでいます。オールラウンドセーラーになるのにはもう少し時間が必要ですが、今日のような経験がその必要性を加速させる要素だと思います。コーチとしても背中をしっかり押さなければなりません。
【土居一斗・今村公彦組 総合成績】(3日目8レース終了時)
http://nautic-event-capdagde.com/resultats
5位:(28)-2-3-13-2-12-11-4
▲第5レース:ロンドン五輪3位のアルゼンチン艇と接戦
▲必死に追いかけるリーチング
▲第8レース、2位で上マーク
2日目
2日目 13-2 総合4位に上昇
風をよく見て 少しでも早くフレッシュな風をつかむこと
▲第4レース:スタートに苦しむ土居組(JPN)(大会2日目・4月11日)
気象予報より少し強い(岸がレース海面左に見える)北北東50°10~12ノット。風の強弱は有るもの比較的安定した中、予定の2レースが実施されました。
【第4レース】
初日を見る限り、土居・今村組は良いスタートさえ切れれば実力的にもトップ5に入れるであろうと思っていました。しかしながら、このレースで見せた悪いスタートではレース組み立てのリズムがつくれず、二人は苦戦しました。風の強弱のある海面でしたから、スタートで出遅れてしまえば(添付写真を参照)当たり前のことですがブローを先行艇に先取りされ、定石であるリフトを長く走ることが叶わず、いかに格下相手でも追いつくことができませんでした。13着に終わりました。
敗因はスタートで出遅れ、ホープレスゾーンで3分以上も走ってしまったことで先行艇に水を空けられてしまったことに他なりません。反省点は「少しでも早くフレッシュな風で艇速を生かすこと」です。
また、特に感じたことは、上位チーム(ロンドンオリンピック上位者)はそれまで走ったレグの風状況を覚えておき、かつ、マーク回航後にどちらの風が有利かを良く見ています。彼らは覚えておくことと、新しく目から入れる情報を巧みに使い着実に順位を上げてきます。このレースで土居・今村はその前後の情報が上手く使えていませんでした。チームのコンビネーション能力を上げるポイントです。
【第5レース】
4レースのフィニッシュ後、簡単なミーティングをおこない、反省&改善点を明確にしてレースに臨みました。
スタートは出遅れ気味でしたが、彼らはしっかりとレースプランを持ち、フレッシュな風でトップグループと互角に戦い3番で上マークを回航。1・2番手がスピンを上げずにラフィングマッチをしている隙にスピンアップ、一気に2マーク(サイドマーク)で並ぶことができました。その後も格上のアルゼンチン・ドイツ・ニュージーランドと互角にダウンウインドを戦いました。
土居・今村組の評価点は「風を良く見ていた」ことです。ガスティーなコンディションで自分らの風を見つけました。(ここでの私のセーラーヘのアドバイスは『判断に迷ったら、相手に左右されず自分が次のマークに早く到達することを優先する』です)
このレースは(結果的に悪い点も有りましたが)2位でフィニッシュしました。順位よりもポリシーがしっかりしていた良いレースだったと評価できます。
失敗が常に改善されるとは限りません。何度も何度もトライ&エラーが必要です。少しずつ成長できれば上が見えてきます。大いに学んでほしいと思います。
2日目を終え第1レースの28がカットされ、総合4位につけました。3位も目の前です。二人の目の輝きも増してきています。
【土居一斗・今村公彦組 総合成績】(2日目5レース終了時)
http://nautic-event-capdagde.com/resultats
4位:(28)-2-3-13-2
▲第5レース:ロンドン五輪3位のアルゼンチン艇と接戦
▲第5レース:接戦のトップグループで回航
1日目
大会初日 土居・今村組 11位発進
1レース目失敗も次を2-3で盛り返す
(大会初日・4月10日)
初日は気象予報通りに軽風域で始まりました。南から南南東の海風、8ノットから徐々に強くなり中風域の12ノットの中、予定の3レースが実施されました。
【1レース目】
なんと、出だしはブラックフラッグ(BFD:失格)でした。土居・今村組は前の大会(プリンセスソフィア杯)でスタートが悪かった反省を生かし、攻めの飛び出しを見せましたが、彼らに言わせると「スタート前にチェックしたラインの見通しが不十分だった」ようです。
(思わぬ失格となったため、除外中の時間を使いセールチェックを行い、私の見るところでは丁度フルパワー手前のコンディションでセールパワーが少し足りない感じがしましたので、リグテンションを上げたり、マストプラーを入れたりと調整をはかりました。二人も納得した様子で次に期待が持てる状態になりました)
【2レース目】
少し抑え気味のスタートながら、風下艇との間に十分なスペースが確保できたことから、有利サイド(左海面)をフリーな位置で走ることができ、1上マークをトップ回航する事ができました。2位にはロンドン五輪銅メダリストチーム(アルゼンチン・フランシスコ組)がつき、途中まではリードを保ちましたが、2上マークの手前で躊躇したタックが多くなり一気に追いつかれてしまいました。外から見た感じでは左右どちらサイドでレースを組み立てたいのか彼らの確固たる意志が見えない感じでした。案の定、2回目のダウンウインドで彼らよりも先にブローを見つけたアルゼンチンにパスされ、2位フィニッシュとなりました。
【3レース目】
風も少し強くなり10~14ノットに上がってきましたが、またも左海面が有利と判断し、見事な下1スタートで1マークをトップ回航、2レース目に続き連続トップ回航でした。スタートの良さとボートスピードも安定してきた証拠だと思いました。しかし、本人たちも課題としているダウンウインドでは簡単にパスされてしまいます。この課題克服には“もっとアイディアが必要”“スキッパーとクルーのコンビネーションを上げること”そして“良い風をいち早く見つけること”が重要となります。
初日はBFDという気負いの失敗もありましたが、その後を上位で走り総合11位発進となりました。シリーズ序盤の捨てレースはあってはならないのですが、これも強くなるための試練です。
“しっかりスタートをすること”“大きな視野でレース展開ができること”彼らの課題は見えています。明日以降、クレバーな戦いを続けることができれば必ずや上位が見えてきます。
【土居一斗・今村公彦組 総合成績】(初日3レース終了時)
http://nautic-event-capdagde.com/resultats
11位:BFD28-2-3
▲下マーク首位をキープ
▲ロンドンメダイストに次いで2位フィニッシュ
▲トップ回航する土居・今村
470SC
日本470級男子 期待の星 土居・今村組 参戦
●開催地:南フランス キャプ ダグド セーリングセンター
●大会期間:2013年4月9日~4月14日(レ―スは10日~)
●webサイト:http://www.sailracer.org/events/event-v2.asp?eventid=141574
●エントリー:男子20チーム(9か国)、女子8チーム
●日本出場チーム:
アビームコンサルティングチーム
土居一斗・今村公彦組(日本経済大学・九州旅客鉄道株式会社)
●帯同コーチ:中村健次(ナショナルコーチ)
ISAFワールドカップ・パルマ(44回プリンセスソフィア杯)が終了し間もないことが影響したのか、またロンドン五輪次年度ということなのか、大会参加数は男子20艇/女子8艇、合せて28艇の少ないエントリーになりました。
日本から参加の470級男子の若手ホープ土居・今村組は2月にチームアビームとして新チームを結成、プリンセスソフィア杯(総合29位・国別19位)に続く欧州遠征2戦目のエントリーです。海外でのレース経験が少ないことから、今年は多くの大会に参加し経験を積むこと、また、各大会から得る課題を明確にしてレベルアップを図ろうとしています。
明日午後からレースが始まります。風予報は大会期間をとおして軽風域が予想されています。どこまで競争力がつくか、期待したいと思います。大会を目前にして土居・今村の士気は高く、多くの経験を肥しにして成長しようと目を輝かせています。